2011.02.15.
相続対策はどこまでオープンにすればよいのでしょう?
財産評価の内容や遺産分割の方法などを生前に明らかにし過ぎると、相続人の間で複雑な感情が生じ、かえってもめてしまう事例を紹介します。(登場する人物や会社の名称はすべて仮名です)
長尾敬介さんは建設・不動産業である長尾興業株式会社を40年以上前に創業。妻の育美さんとの間に長女・直美さん、長男・博巳さん、次女・優香さんという3人の子供がいます。
直美さんは高校卒業後、ずっと長尾興業で事務方全般を担当。結婚してもそのまま実家を手伝っています。
長男・博巳さんは大学卒業後、同業他社に2年間修行してから長尾興業に入社。現在は専務のポジションで、敬介さんから実質的な経営を任されています。古参社員から未だに「坊ちゃん」呼ばわりされており、頼りなさが抜け切れません。
創業以来ずっとバイタリティーあふれる仕事ぶりで知られていた敬介さん。しかし、年齢には勝てず、70歳を過ぎたころから足腰が弱り始めました。そのため、直美さんはもちろん、近くに嫁いだ優香さんが世話をするようになりました。
「もう先が長くないかも」。少し弱気になった敬介さんは相続のことが気になり出し、取引銀行の担当者から勧められた相続税試算を依頼してみました。
現時点での財産評価があがると、子供3人を呼んで、相続について相談しました。
敬介さんは3人の前で財産評価を公開。「後継者でもある長男の博巳に、会社の株や不動産等を相続させたい」という意向を告げました。
「博巳は苦労知らずでまだまだ頼りなく、経営者の器ではない。それに、夫婦そろってお父さんの面倒を全然みてくれない。なんで、こんな弟に財産の大部分を相続させるのか」
後日、直美さんは敬介さんに「納得できない」と直談判しました。
その後、敬介さんは悩んだ末に専門家の証人を立てて公正証書遺言を作成。その旨を3人の子供に伝えました。
しかし、遺言の内容は非公開。そのため直美さんと博巳さんとの間で疑心暗鬼になり、両親や会社の社員に互いの悪口を言いまくり、足の引っ張り合いを展開しています。
<ポイント>
・ 生前の段階で、相続人たちに安易に財産評価を見せたり、相続の相談をすると、人間関係にひびが入る可能性もある
・ 相続の生前対策の目的をはっきり決めること。ただ後継者を発表するだけでは不十分
・ 事業承継者がまだ成長段階にある場合は、もう少し時期をみてから相談したほうがよい場合がある